THE ROOTS



遊牧民の王様の話のルーツがわかった。
お互い変わっても、それを尊重し合える関係は素晴らしい。


 地元にヒデくんという友達がいる。俺には地元がないから、高校のラグビー部で一年先輩だった彼がたまたま近くに住んでいたというだけなのだけど。彼とは高校の頃からよく地元の銭湯に行って語り合った。そしてその後は彼の家に行って、朝まで話の続きをするといった具合だった。たまに他の仲間も呼んで俺の家で会を開くこともあった。あの頃の移動はチャリだったな。今はクルマだ。
 ヒデは中学まで不良だったが、音楽や思想など色んな世界を知ってた彼から幼かった俺は色んなことを吸収した。部活が中心の生活だったし、高校生らしい遊びもしてたけど、レコードを探しに行ったり、ミニシアターを観に行ったり、メインストリームから少し外れたようなカルチャーを歩き回った。
 一年早く大学に上がった彼は早速インドへ行った。大学に入ったら海外を旅するのが夢だったから、俺の方がわくわくして、行きは空港まで見送りした。平日の朝だった。通勤ラッシュの満員電車で彼は言った。日本ってどんな国なんだろう。
 確かその後だと思う。俺がよくするモンゴルの話を聞いたのは。史上最大の帝国には何一つ遺跡や文書が残っていない。宮廷さえも移動式だった彼ら遊牧民は、記録でなく記憶の民族なのだと。


 一年遅れて俺も大学に入学し、カリフォルニアからメキシコにかけて旅に出た。初めての一人旅で一気に世界観が広がった。帰国して、「憧れの先輩」であったヒデとまたそのことを語り合うと、彼は「もう俺たちはフラットな関係だ。俺はもう先輩じゃないから敬語もやめよう。」と言った。その頃からだ、彼を「ヒデ」と親しみを込めて呼ぶようになったのは。


 それからは段々と合う頻度も減っていった。同じ大学生と言えど住む世界はだいぶ違った。俺はその頃から交友関係を広げることに努めるようになっていったし、ヒデは逆にアンダーグラウンドに近づいていった。詳しくは知らないが、少なくとも周りからはそう見られていたし、とにかく俺とは対照的なベクトルを持って進んでいった。お互い連絡を取り合うようなことは少ないし、ただ口約束でも社交辞令でもなく、確実にまた銭湯に行こうとは思っていた。



 そして先日、久々に会合が実現した。話を辿ってみたらちょうど一年ぶりだった。意外に近かったな。彼の部屋はアトリエみたいになっていた。また色んな話をした。就職の話、旅の話、掃除の話、歴史の話、アメリカの話、幸福の話、宗教の話、家族の話、昔の話・・・。自分で話してみて、この一年でまた俺もかなり変わったなと実感した。この先も、果たしてこんなペースで変わっていくんだろうか。そして彼とは、ますます世界が離れていた。境遇も、目指すところも。それなのに、これまでより強く繋がった気がした。ここまで現実が乖離しているのに、理解し合い、尊重し合えたことを、本当にうれしく思う。彼もそう言った。
 俺は、ヒデがインドへ行った朝の話をした。あの朝を覚えているかい?俺がアメリカから帰ったときの話もした。あの時もらった言葉で僕はひとつ階段を上ることができたんだよ、と。その話を思い出した彼は一冊の本をくれた。あのモンゴルの話はたぶんこれで読んだんだよ、と。4年越しに俺のルーツに出会えた。

光ばかり見ていたら、いつか影に復讐される


幸福について真剣に悩む人間であってほしい
そういう人たちがいなきゃ駄目なんだ

 彼はそう言っていた。次はいつ会うだろうか。




草原の記 (新潮文庫)
草原の記 (新潮文庫)

Comments

Popular posts from this blog

プエルト・エスコンディード サーフマップ

THE WEIGHT

Jamaican Surf